眺めながら使いたいおちょこ 08
里秋窯
みなさんもご存じの通り日本にはたくさんの焼き物があります。
それぞれに特徴や個性があり、その土地の土や文化が色濃く反映されます。
今回は群馬県の山のど真ん中にある窯におじゃましました。
里秋窯という窯です。
窯が直売所のすぐ隣にあり、私が訪れた時にもその窯からは煙が立ち上っていました。
自性寺焼
自性寺焼の歴史は古く、江戸時代中期に全盛期を迎えていたといわれています。
生活用器のほか、芸術的なものまで広くつくられていたそうです。
しかし、
時代の流れの中で、この自性寺焼は、日露戦争直後の明治三十八年(一九〇五年)に最後に残っていた窯元が益子へ移り惜しくも長い伝統の火が消えました。
(里秋窯の方からいただいた自性寺焼由来から抜粋)
実は自性寺焼は歴史の中で一度途絶えてしまったのです。
それでは、今つくられている自性寺焼はどのようにつくられたのでしょうか。
現在にいたる自性寺焼
いま自性寺焼を生み出している青木さんはその土地の古窯跡や山野を駆け巡り、無尽の陶片を見つけては研究しました。
そして昭和五十三年(一九七八年)、実に七十三年ぶりに再現復興することができたのです。
人からでなくモノから伝統や技術を受け継ぎ、自性寺焼はこのようにして今もつくられています。
魚鱗紋・金華紋
直売所の中に入ると博物館のようにガラスケースに展示されているモノがいくつもありました。
中でも目を奪われたのは大きな壺でした。
文様が魚の鱗のようにも見えることから「魚鱗紋」という名前がつけられた壺でした。
土の中にあるチタンの成分が光を反射して金色に輝くそうです。
大きく堂々とした佇まい。青木さんの作品の中でも傑作だそうです。
そしてもう一種類惹かれたのは橙色と金色が混ざったような器でした。
魚鱗紋と成分は同じですが、入る文様が異なるため「金華紋」という名前がつけられていました。
今回私が購入したのはこの金華紋のおちょこです。
職人≒科学者?
職人というと膨大な経験によって磨き上げた腕で呼吸をするように次々と素晴らしいモノを生み出せる人だと思っていましたが、青木さんに話を聞いてみるとまるで実験を繰り返す科学者のようだと感じました。
私が訪れた時は窯を新しくつくり変えて少し経った頃でした。
土が変わり、釉薬が変わり、窯が変わると当然ですが仕上がりが全く異なります。
これまで安定して焼けていたモノも窯が変わったことで全く安定しなくなってしまったそうです。
そのため毎回窯の温度や焼く場所、釉薬、モノのカタチや大きさなどを変えて納得のいくモノが焼けるまで試します。
科学者が実験データを集めるように何度も何度も。
それも窯に火を入れるのは二日二晩や三日三晩。
1回のデータをとるのにそれだけの労力がかかるのです。
「最近は失敗した後落ち込むようになっちゃってだめね。」
奥様はそう言って笑っていました。
私の目の前に置かれたさまざまなモノの向こうにはそういった数えきれない失敗があると思うとより一層手に取ったモノが美しく見えました。
およそ無限とも思える要素を組み合わせて、何度も失敗を乗り越えて今の自性寺焼はつくられていました。
使ってさらに輝く
「このうつわは水を入れると光るんですよ。」
そう言って奥様が水を用意してくださりおちょこに水を注ぐと底がきらきらと輝き始めました。
金華紋のうつわは水を入れることで中の文様が光を反射して輝くのです。
使うことでさらに美しくなる。理想的な日用品です。
数あるおちょこをひとつひとつ手にとって自分に合うものを探します。
このひと時がまた楽しい。
迷う楽しさ
少しずつですが、お気に入りのおちょこが増えてきました。
食卓を囲む家族とその日の気分で使うモノを選びます。
さてさて今日はどれを使おうか。