笠間焼道中
笠間焼のことを知りたくて私は茨城へ行きました。その道中の話です。
昨年8月。青春18きっぷ。を初めて買い、降りた駅は笠間駅。田舎の駅って感じです。着いた時は既に夕方だったのですがまだまだ暑い。
駅で色々載った地図を手に入れました。
詳しく見ると「やきもの通り」という文字が。ここだ。
少し歩くといたるところに窯、窯、窯。
なるほどこれは焼き物の町だなどと思いながら強い西日の中歩きました。
そしてある問題に気付きます。
どの窯に行けば良いのかわからない。
歴史云々は置いといて、笠間に窯を構えている以上すべて「本物の」笠間焼です。
大きな窯元を訪ねればいいのか、綺麗な外観の窯元を見ればいいのか、初めて笠間に来た私にはさっぱりです。
悩んでも仕方ないので地元の人に尋ねてみることにしました。
駄菓子屋さんでガリガリ君を買い、お店のおばちゃんに尋ねてみました。するとそこからすぐ近くの窯元を3軒ほど教えてくれました。駄菓子屋のおばちゃんありがとう。暑い日のガリガリ君超美味しかったです。
いよいよ窯元へ
教えてもらった中で一番近いところに向かいました。
工房と作品の直売所が隣接されています。
直売所の中に入ると焼き物がずらり。誰もいなかったのでこれ勝手に見てて怒られないかなとびくびくしながら見て回りました。
しばらく物色していると若い作家さんらしき人が入ってきました。
思い切って話しかけます。
「あの!ちょっとお話いいですか!?笠間焼を見に来たんですけど!」
たぶんちょっと引かれてました。
なんとか持ち直し、その工房のことなど少しお話を伺いました。
そして伝統的な笠間焼はどういったものなのかを聞くと「うちよりもこっちの窯の方がたくさんあると思います」と別の窯を教えていただきました。それが三宅陶園でした。
時間はすでに17時ごろ。三宅陶園は17時までです。ん?終わった?
電話をかけ、焼き物を見せてもらえるか尋ねると、私が着くまで店を開けておいてくれるとのこと。感動。急がねば。
お礼を告げて駆け出します。
一本道なので迷いようがないのですが問題は距離です。地図上では数センチ。実際は数キロありました。
三宅陶園
20分ほど歩いた先に目的地三宅陶園が。
入ってすぐに挨拶するととても優しそうな奥様が迎えてくれました。
直売所にはもう一人椅子に座った男性が。その方がこの窯元の4代目、桂山さんでした。
汗だくの私を見かねたのか焼き物を見る前に奥様が冷えたお茶を出してくださいました。そして更に手作りのきゅうりの漬物が。走って熱くなった身体にひんやり気持ちいい美味しい。その時の私は完全に夏休みにおじいちゃんの家に遊びに来た孫でした。
そしてやっとこ焼き物を見せていただきます。
お猪口から大きな壺など種類は様々、所狭しと並んでいます。
「本物の」笠間焼
寡黙な桂山さんですが、無知な私が焼き物について尋ねると作品を手に取りいろいろなことを教えてくれました。
焼き方の種類、釉薬について、陶芸の面白さなどなど知らない世界の話に引き込まれます。
笠間という土地の変化についても話してくれました。
昔は7軒だった窯元も今ではその数倍に増え、外から来る人も増えたそうです。しかし人が増え、焼き物の町として活気づく中でも、良いことばかりではないそうです。
人が増えても技術が伝わるとは限らない。
桂山さんは少し寂しそうにぽつりとそう言いました。
還元焼成の焼き物は綺麗に色が出ないことが多く、売り物になるのは全体の数割程度。商いとしては効率の悪い手法です。そのためつくるモノを小さくして数を多くつくったり、焼き方を酸化焼成にしたりする窯が増えました。
いわゆるお土産のための焼き物をつくる所も多いそうです。文化としてでなく観光としての焼き物。ひとつの在り方ですが、「本物の」笠間焼とはなにか、考えさせられます。
飛来する影
私がどの徳利を買うか悩んでいるあたりで窓やドアが全開だった三宅陶園に思わぬ来客が。
オニヤンマです。
元気に中を飛び回ります。挙句奥様の額に着地した時はどうしようかと思いました。なぜよりによってそこを選んだオニヤンマ。
それにしても久々に見たオニヤンマ超でけぇ。超こえぇ。
奥様は笑いながらはたき落とします。奥様超すげぇ。
桂山さんとドライブ
散々迷って徳利1つとお猪口2つを購入。話を聞いたり、あれこれ迷っているうちに気づくと居座って1時間以上経過していました。さすがにそろそろ帰らねばと思い始めたあたりで奥様が冷やしトマトを出してくださいました。ありがとうございますいただきます。トマトの水分が夏場は嬉しいですね。ただ買い物に来た私ですがなぜか至れり尽くせりでした。
帰りはまた笠間駅まで歩くと言うとこの時間から戻ったら暗くなって危ないからと友部駅(帰るのにより便利な駅)まで車で送ってくださいました。
桂山さんと2人でドライブです。
この方の作品を手にしている人は他にいても2人でドライブした人はなかなかいないんじゃないでしょうか。
こうして私の笠間旅は幕を閉じます。
つくり手の方の話を直接聞けるのは私にとって新しい経験でした。
どんな人が、どんな思いを込めてつくったのかを知ってそのモノを使う。
三宅陶園の徳利とお猪口を使うたびにお2人のこと、笠間のことを思い出します。
私にとって父との晩酌の時間は楽しい会話の時間であり、楽しかった笠間を思い出す豊かな時間でもあるのです。
桂山さん、奥様、先日は本当にお世話になりました。
またお会いできる日を楽しみにしています。