和田窯道中
和田窯
結果としてマグカップを手に入れることができたのですが、実はお店にたどり着くまでにもいろいろありました。
インターネットで調べても詳しくわからなかった和田窯。住所だけ控えてとりあえず向かうことにしました。
今回の交通手段は電車でなく車。現地についてから足があるのは非常に便利です。暑い外を涼しく速く移動できる素晴らしさ。車すげぇ。
幻の和田窯
車を走らせナビに打ち込んだ住所にたどり着くと……和田窯の文字はなし。
住所は合ってるはず……なのに、探している和田窯が見当たらない。
近くにお土産屋さんがあったので聞いてみます。
「和田窯という窯を探しているですが、どこにあるかご存じですか?」
「……和田窯?初めて聞きました。」
おっと予想外。どうしよう。
再び住所の場所に行くと建物はありますがやはり看板などはなにも出ていません。
どうしたもんかと悩んでいると目の前の扉がガラッと開き中から若い男性が。
すかさず聞いてみます。
「和田窯という窯を探しているのですがご存じですか?!」
「……和田窯?…ここです。」
ちゃんとあったよ和田窯
えぇぇぇぇぇぇぇ。
奇跡的なタイミングで出会ったこの男性がまさに和田窯の方でした。
和田窯を探してここまで来たことを伝えると「中を見ていきますか?」と中にあげていただけることに。
え?良いんですか?
昼食を買いに出かけるところに声をかけてしまっていたらしく、にもかかわらず中を案内してくださいました……その優しさ天井知らず。
工房に潜入
工房の中には人が入れるほどの大きさの窯と小さな冷蔵庫くらいの窯がひとつずつありました。なんせ窯がでかい。身の丈以上、高さは2mほどでしょうか。扉がガバッと開いた時は思わず「おぉぉっ…」と声が出ました。
その窯の周りには形成した器などを乾燥させるいくつもの棚があり、さらにその奥では若い方が数名ろくろを回していました。
これまでに訪れたところではいかにもという熟練の職人さんばかりだったのでこの光景は少し意外でした。
陶庫
さらにここで作られたモノはどこで買えるのか尋ねると扱うお店まで案内していただけることに。あなたはどこまで親切なのですか……その優しさ底知らず。
そして案内していただいた先が「陶庫」でした。
次世代
安直な考え方ですが、若い方がモノづくりに向き合っている姿を目の当たりにして次世代の益子焼に期待せずにはいられません。
また立ち寄り、ほかのモノを使う日が楽しみです。
ありがとう和田窯
和田窯に着いたのがもし30分ずれていたら、おそらく諦めて帰るしかなかったと思います。
あのコーヒーマグカップと出会えるまでにも幸運がいくつも重なってやっとこたどり着くことができたのです。
お昼ご飯の時間を1時間以上ずらしてしまってすいませんでした。
本当にありがとうございました。
工房の方の優しさと幸運のおかげで今日もコーヒーが美味しいです。
豆から挽いて淹れたいコーヒーマグカップ 03
休日の贅沢
私はコーヒーが好きで休みの日には自分で淹れて飲んでいます。
どうです。オシャレでしょう。
昔も今も知識などが詳しいわけではないですが、家でも豆から挽いたコーヒーを飲みたくて、ある時ふと思い立ちミルを買いました。
それに家で豆から挽いて淹れたコーヒーを飲むっていかにもオシャレじゃないですか。
「ちょっと待ってて。今コーヒー淹れるよ。」とかサラッと言ってみたい。
そしてそのコーヒーの時間をもっと豊かにするために必要なのはやはりマグカップだろう!と思ったのです。
益子焼
そこで白羽の矢が立ったのが、益子焼です。
関東の焼き物として有名どころの双璧は以前ご紹介した笠間焼と益子焼ではないでしょうか。
益子焼は笠間焼の産地、茨城の笠間市から山を越えた栃木県の芳賀郡益子町で主につくられている焼き物です。
車で行けば笠間から1時間とかからない距離にあります。地図でいう栃木県の右下の方です。
和田窯
益子にもやきもの通りのような焼き物のお店が立ち並ぶ場所があったのですが、行く前から気になっていた和田窯という工房を訪ねてみることにしました。
そしてなんとかたどり着いた先が「陶庫」というお店です。
陶庫はセレクトショップのようになっていて、その土地の作家さんの作品を始め様々な種類のモノがありました。内装もオシャレで中を見て回るだけでも楽しかったです。
来ているお客さんも若い方から年配の方まで幅広い層がいたように思います。
そして実は和田窯は陶庫のいわゆるプライベートブランドでした。陶庫がそのお店で独自に展開しているブランドということです。もちろんインターネットでも購入できます。
ツートンマグ
そのお店で選んだのが今回のマグカップです。
釉薬は主に次の4色。白、黒、茶、青磁のような明るい緑。
これはまんぼう湯呑みというシリーズで見た目がなんとも可愛らしい湯呑みです。思わず買い揃えてしまいました。
マグカップはこの4色から2色を組み合わせたツートンになっています。
このカップは上側が茶色で下側が黒です。
ちなみにこの内側は茶色になってます。
「ブラックコーヒー待ったなし。」
思わずこんな言葉が浮かびませんか?
同じ商品から選ぶ楽しみ
一目見て、手に持ってこのカップを買おうとすぐに決めたのですが、レジへ行くと同じ種類のカップをいくつも出してくれて選ばせてもらえるのです。
手で作られているモノなので、ひとつひとつに個性があります。
出されて並べられた時はそれほどわからなかったのですが、手に持ってみるとその差は歴然。
取っ手の広さや角度、口の広がり方などまるで違います。
見た目はほとんど同じなのにこれだけ違いが出るものなのかと驚きました。
4つほど試し、一番自分の手にしっくりくるモノを選びました。
これは私に使われるためにつくられたのではないかと自意識過剰になってしまうほど。
この時間もまた手づくりのモノ選びの楽しさのひとつ。
これはネット通販などではなかなか味わえないと思います。現地に訪れた人ならではの特権なのです。
陶庫のお店のスタッフの方々も非常に感じが良く、楽しくお話させていただきました。
和田窯の方との出会いもあったのですが、それはまたの機会に。
良いモノは良い
使ってみるとこのカップにはやはりブラックコーヒーがとても良く似合います。
口の部分が大きく開いているので香りの広がり方が抜群です。
ちょっと多めに飲みたい私としては大きさもちょうどいい。コーヒーサーバーでいう1.5杯分くらいでしょうか。
何度使っても楽しい。良いマグカップと出会えました。
新しい伝統
今回私が手に取ったモノは歴史的にみると、「新しい」益子焼なのだと思います。若い人にも受け入れられやすいモダンなデザインでしかも使いやすい。
これからの和田窯にもますます期待です。
このカップを使って飲むコーヒーは2割3割増しで美味しいです。
休日に少しだけ手間をかけて淹れたコーヒーを飲みながら映画を観る。
私の精一杯オシャレで贅沢な時間です。
変化を楽しみたいクラッチバッグ 02
紙和
このバッグは紙でできています。
「ナオロン」という、破れにくく水に濡れても大丈夫というとってもスーパーな障子紙から作られています。
この素材で作られたモノが「SHIWA|紙和」シリーズです。
他にもトートバッグ、財布、ランドリーボックスなどなど種類や色は様々。
デザイナーは深澤直人さん。シンプルで使いやすく飽きがこないとても好きなデザインです。
最近セレクトショップでも扱われ始め、注目を集めているのでご存知の方も多いのではないでしょうか。
紙和のクラッチバッグ
はじめに伝えますと、このバッグはクラッチバッグではないです。我ながらなにを言ってるのかよくわからないと思うのでちゃんと説明します。
本来これはiPadなどを入れるタブレット用クッションケースとして作られています。
これですね。ばっちりタブレットを入れてます。
ですが私はサイズがちょうど良いのでクラッチバッグのように使っています。なので今回はクラッチバッグとして書きます。
あ。でもちゃんとクラッチバッグも別につくられていますよ。(ややこしい)
これです。これは紙和のクラッチバッグです。これも欲しいです。大きさも選べるのが嬉しいですね。欲を言えばもう少し色の展開が欲しいところ。
それでは話を私の「クラッチバッグ」に戻します。
おでかけに紙和を
身軽に出かけたい時私が持って行くモノは
・財布
・定期券
・イヤホン
・ハンカチ
・目薬(私の生命線)
これに1冊本を足すかどうかくらい。これらを入れるには十分な大きさです。最初の写真も中に全て収まった状態で撮っています。
上にはジッパーが付いているので中の物が落ちる心配もありません。
もう少し大きなバッグを使う時にもバッグインバッグとして使っています。
雨などで水に濡れた時はタオルで拭き取って陰干しすればおっけーです。
濡れた時は色がかなり変わっていたので焦りましたが乾くとシミにもならず全然わかんなかったです。ナオロンすごい。
さて、そんな紙和はどこでつくられているのでしょうか。
大直
つくり手にお話を聞きたくて降り立ったのは山梨県。山梨は昔から和紙など紙の製造が盛んな土地です。
私が訪れた大直という会社(工場)は甲府駅から電車で50分ほど乗り継いだ市川大門という駅から更に15分ほど歩いたところにあります。
とりあえず行ってみる
住所だけ調べて向かったところ、そこは工場でした。とっても工場でした。
建物にお店が入ってるんじゃないかと踏んでいたので予想外です。
工場から人が出てきたところにすかさず突撃。
「すいません!ここでモノは買えますか!?」
本来は事前に連絡しないといけないみたいなのですが、たまたま商談に来ていた方たちが帰るタイミングだったらしくアポなしの突撃を受け入れてくれました。ラッキー。
工場ならでは
会社の一室がお店のようになっていて、商品が陳列されています。紙和の各シリーズをはじめ、紙製品(ぽち袋や便せん、葉書きなど)が並びます。
シリーズは種類が多く色の展開も複数あるため全てはとても並びきりません。
そのためパンフレットを渡され、気になるモノを伝えると工場の倉庫から直接取ってきていただき見せてもらえるというなんともぜいたくな感じで見せてもらいました。ちょっぴり申し訳ない気持ちにもなりましたが。
いくつも並んだモノを見比べながらアレコレ楽しく迷い、その中の2つを購入。
レシート代わりに手渡されたのは納品書。
業者か。
ちなみにですが私が使っている青のタブレットケースはもう製造されておらず、現在は白と黒と赤の3色販売されています。
私はまだ若干工場に残っていた在庫を売っていただけました。またしてもラッキー。工場突撃特典かもしれません。
育つ紙和
表面は和紙のように肌触りが優しく、このバッグに関して言えばタブレット用にできているので中にクッションか何か入っているのかふんわりやわらかいです。
そして紙なので当然しわがつきます。それが名前の由来のひとつですね。
使い込むだけ味が出る、革製品と似たところがあるかもしれません。
私のは使い始めて半年ほど。良い感じに育ってきました。
こういった変化を楽しめるのが紙和シリーズの醍醐味かもしれません。
紙和ができるまで
ナオロンという破れない、水に強い素材ができてからも製品になるまでは長い時間がかかったのだとか。
バッグなどを作るには紙と紙を縫い合わせる必要があります。
しかしナオロンは紙なので縫い合わせる、針を通したところに穴が開きます。
これが布であれば繊維がつまるので問題ないのですが紙の場合そうはいきません。
穴はそのまま穴であり、強度も落ちるし水にも弱くなります。
ナオロンの良いところを保ったまま製品にするというのが上手くいかず、様々な工場から加工を断られたそうです。
そんな中その難題に一緒に挑戦してくれる工場が現れ、試行錯誤を重ねた末に完成したのが現在の紙和なのです。
モノに歴史ありですね。
新しい紙
ぜひ一度、紙和を手にとってみてください。
紙という私たちの生活、歴史にぴったりと寄り添ってきたモノのこれまでとは違った一面を感じれるはずです。
笠間焼道中
笠間焼のことを知りたくて私は茨城へ行きました。その道中の話です。
昨年8月。青春18きっぷ。を初めて買い、降りた駅は笠間駅。田舎の駅って感じです。着いた時は既に夕方だったのですがまだまだ暑い。
駅で色々載った地図を手に入れました。
詳しく見ると「やきもの通り」という文字が。ここだ。
少し歩くといたるところに窯、窯、窯。
なるほどこれは焼き物の町だなどと思いながら強い西日の中歩きました。
そしてある問題に気付きます。
どの窯に行けば良いのかわからない。
歴史云々は置いといて、笠間に窯を構えている以上すべて「本物の」笠間焼です。
大きな窯元を訪ねればいいのか、綺麗な外観の窯元を見ればいいのか、初めて笠間に来た私にはさっぱりです。
悩んでも仕方ないので地元の人に尋ねてみることにしました。
駄菓子屋さんでガリガリ君を買い、お店のおばちゃんに尋ねてみました。するとそこからすぐ近くの窯元を3軒ほど教えてくれました。駄菓子屋のおばちゃんありがとう。暑い日のガリガリ君超美味しかったです。
いよいよ窯元へ
教えてもらった中で一番近いところに向かいました。
工房と作品の直売所が隣接されています。
直売所の中に入ると焼き物がずらり。誰もいなかったのでこれ勝手に見てて怒られないかなとびくびくしながら見て回りました。
しばらく物色していると若い作家さんらしき人が入ってきました。
思い切って話しかけます。
「あの!ちょっとお話いいですか!?笠間焼を見に来たんですけど!」
たぶんちょっと引かれてました。
なんとか持ち直し、その工房のことなど少しお話を伺いました。
そして伝統的な笠間焼はどういったものなのかを聞くと「うちよりもこっちの窯の方がたくさんあると思います」と別の窯を教えていただきました。それが三宅陶園でした。
時間はすでに17時ごろ。三宅陶園は17時までです。ん?終わった?
電話をかけ、焼き物を見せてもらえるか尋ねると、私が着くまで店を開けておいてくれるとのこと。感動。急がねば。
お礼を告げて駆け出します。
一本道なので迷いようがないのですが問題は距離です。地図上では数センチ。実際は数キロありました。
三宅陶園
20分ほど歩いた先に目的地三宅陶園が。
入ってすぐに挨拶するととても優しそうな奥様が迎えてくれました。
直売所にはもう一人椅子に座った男性が。その方がこの窯元の4代目、桂山さんでした。
汗だくの私を見かねたのか焼き物を見る前に奥様が冷えたお茶を出してくださいました。そして更に手作りのきゅうりの漬物が。走って熱くなった身体にひんやり気持ちいい美味しい。その時の私は完全に夏休みにおじいちゃんの家に遊びに来た孫でした。
そしてやっとこ焼き物を見せていただきます。
お猪口から大きな壺など種類は様々、所狭しと並んでいます。
「本物の」笠間焼
寡黙な桂山さんですが、無知な私が焼き物について尋ねると作品を手に取りいろいろなことを教えてくれました。
焼き方の種類、釉薬について、陶芸の面白さなどなど知らない世界の話に引き込まれます。
笠間という土地の変化についても話してくれました。
昔は7軒だった窯元も今ではその数倍に増え、外から来る人も増えたそうです。しかし人が増え、焼き物の町として活気づく中でも、良いことばかりではないそうです。
人が増えても技術が伝わるとは限らない。
桂山さんは少し寂しそうにぽつりとそう言いました。
還元焼成の焼き物は綺麗に色が出ないことが多く、売り物になるのは全体の数割程度。商いとしては効率の悪い手法です。そのためつくるモノを小さくして数を多くつくったり、焼き方を酸化焼成にしたりする窯が増えました。
いわゆるお土産のための焼き物をつくる所も多いそうです。文化としてでなく観光としての焼き物。ひとつの在り方ですが、「本物の」笠間焼とはなにか、考えさせられます。
飛来する影
私がどの徳利を買うか悩んでいるあたりで窓やドアが全開だった三宅陶園に思わぬ来客が。
オニヤンマです。
元気に中を飛び回ります。挙句奥様の額に着地した時はどうしようかと思いました。なぜよりによってそこを選んだオニヤンマ。
それにしても久々に見たオニヤンマ超でけぇ。超こえぇ。
奥様は笑いながらはたき落とします。奥様超すげぇ。
桂山さんとドライブ
散々迷って徳利1つとお猪口2つを購入。話を聞いたり、あれこれ迷っているうちに気づくと居座って1時間以上経過していました。さすがにそろそろ帰らねばと思い始めたあたりで奥様が冷やしトマトを出してくださいました。ありがとうございますいただきます。トマトの水分が夏場は嬉しいですね。ただ買い物に来た私ですがなぜか至れり尽くせりでした。
帰りはまた笠間駅まで歩くと言うとこの時間から戻ったら暗くなって危ないからと友部駅(帰るのにより便利な駅)まで車で送ってくださいました。
桂山さんと2人でドライブです。
この方の作品を手にしている人は他にいても2人でドライブした人はなかなかいないんじゃないでしょうか。
こうして私の笠間旅は幕を閉じます。
つくり手の方の話を直接聞けるのは私にとって新しい経験でした。
どんな人が、どんな思いを込めてつくったのかを知ってそのモノを使う。
三宅陶園の徳利とお猪口を使うたびにお2人のこと、笠間のことを思い出します。
私にとって父との晩酌の時間は楽しい会話の時間であり、楽しかった笠間を思い出す豊かな時間でもあるのです。
桂山さん、奥様、先日は本当にお世話になりました。
またお会いできる日を楽しみにしています。
父と晩酌したい徳利お猪口 01
これで父とお酒を飲んでみたい。
私はお酒がめっぽう弱いです。アルコール消毒すら念のため避けるようにとお医者さんに言われるレベルの弱さなのですが、これを見た時は思わずそう思いました。
本日はこの徳利とお猪口をお伝えします。
笠間焼
笠間焼をご存知ですか?
笠間市は茨城県の南北でいうとおよそちょうど真ん中あたり、ちょっとくびれっぽくなってる感じの栃木寄りに位置してます。このイメージが伝わったかどうかわかりませんがだいたいその辺です。
基本的に山ですね。駅から離れれば離れるほど山です。そんな山々の土から作られる焼き物を指して笠間焼と呼びます。たぶん。
関東の焼き物といえばこの笠間焼と栃木県の益子焼が有名なんじゃないでしょうか。
そんな焼き物で有名な笠間にはたくさんの窯元があるのですが、今回私は縁あって三宅陶園という窯にたどり着きました。
三宅陶園
私はなぜ看板だけ撮って建物を写さなかったのでしょうか。謎です。
走って向かっていたので余裕がなかったんですかね。
惜しいことに写っていませんがこの看板のすぐうしろに焼き物の直売所兼お家があります。
三宅陶園は現在4代目の桂山さんが受け継いでいる工房です。
還元焼成
焼き物には酸化焼成と還元焼成と呼ばれる、大きく分けて2種類の焼き方があります。ちなみに桂山さんの作品の多くは後者の還元焼成で作られています。
酸化焼成は十分に酸素がある状態で焼くこと、還元焼成はその逆で酸素が足りないまま、不完全燃焼の状態で焼くことをいうそうです。
なにがどうなってこうなるのか仕組みは説明できませんが、見た目はまるで違います。
酸化焼成では緑に焼きあがる釉薬(焼く前に土に塗るもの)が還元焼成ではこのように鮮やかな赤に変わるのです。
何よりこの鮮やかな赤に惹かれました。手に持った時にしっくりくる。人の手がつくる温かさを感じます。
赤が綺麗に出ないものも多く、そういったものは売り物にならず割って捨ててしまうそうです。
陶芸家のイメージで頭に浮かぶ「ちがぁぁぁぁぁう!!」(パリーン!)みたいなのも意外と本当なのかも?(桂山さんは決してそういう方ではありません)
このお猪口は大きすぎず小さすぎず手になじむ大きさです。
透き通った色が気に入り即決しました。
桂山さんも「これはいい」と自器自賛してました。
裏には桂山さんの名前が入っています。
こちらは還元焼成で鮮やかな赤になるはずの釉薬がかかっていますがうまく色が出なかったため赤、緑、そして2色が混ざった紫の3色が出ています。
還元焼成としては失敗なのかもしれませんがこの絶妙な色合いが気に入っています。
4代目桂山さん
静かな方でしたが、父と晩酌するための徳利とお猪口が欲しいと伝えると並んでいる作品のことだけでなく焼き物の色々なことを教えてくださいました。
モノによっては24時間~50時間も焼成することがあるそうです。
丸2日以上かけて焼いても窯を開けてみるまで自分でもどんなものが出来上がっているのかわからない。
そこも焼き物の楽しさのひとつだそうです。
売り物になるものは数十個~百個のうち数点しかないこともよくあると聞き、今自分の目の前にあるこの作品の影には何倍、何十倍ものお客さんの目に触れないモノがあるのかと、焼き物の途方もなさを感じました。
色が綺麗に出ても釉薬が台に垂れてくっついて取れなくなってしまっていることもあるそうで、そういう時も泣く泣く割るしかないんだとか……
「損得でやってるとできないよ」
そう笑った桂山さんの顔がとても印象的です。
桂山さんの奥様もとにかく優しい素敵な方でした。いただいたお茶、きゅうりの漬物、よく冷えたトマト、どれもとびきり美味しかったです。
実はモノを作っている人に会いに行って話をしたのはこの三宅陶園が初めてでした。
そもそもいきなり訪ねて行ってつくり手の方に話聞いたりできんのかよ……って思いながらの訪問でしたが結果帰り道の私はほくほく顔でした。
幸運に恵まれ、とても素敵な良いモノ、良い人と出会うことができました。
三宅陶園でのお土産話などをしながら父と晩酌した日のお酒は奇跡的に美味しかったです。
日本粋薦 00
あなたの毎日を少しだけ豊かにしてくれるモノがたくさんあります。
そしてそのモノを一生懸命つくっている人がいます。
そういう人やモノをひとり、ひとつでも多く伝えられたら嬉しいです。
はじめに、紹介したい文章があります。
「朝目覚めて、まず一杯の水を飲む。そのコップに何の愛着もないとき、それはただ喉の渇きを潤すだけの、生きていくための最低限の作業の時間に過ぎない。けれど、敬意を持つほどに大切なコップだったら、それは渇きを潤す以上の快感の時間だ。つまらない人生を送りたくなかったら、まずは『日用品』こそ、作られた過程や背景に美意識が込められた、尊敬できるものを選びたい。」
いざ引用してみると長い……
これはBRUTUS 2013年6月1日号の中のコトバです。
少し前の話になりますが、BRUTUS読んでるってオシャレっぽいかなという理由でバックナンバーを買いあさっていた時期がありました。
買って満足して未だに目を通してないものすらありますほんとごめんなさい。
そんな私ですが、この号に関しては本屋さんで目に留まってすぐ買って帰って読みました。
シンプルなコップのイラストにひとこと、「尊敬できる『日用品』。」
今見ても惹かれる表紙です。
それまでも自分が使うモノには気をつかっていたけれど、はっきりと意識し始めたのはこの一冊がきっかけかもしれません。
普段の何気ない作業がちょっと楽しくなるような、
たとえば朝起きて、顔を洗って、ふかふかのタオルで顔を拭いたら、それだけで良い朝になるような、そんなモノを私自身もっと知りたい使いたい誰か教えて。
モノはつくり手の技術の粋が集められています。
モノはあなたに使われて初めて輝きます。
私は自分の目で見て、手で触って、耳で聴いて、話をして、買って、使って、感じたことを伝えます。
そしてあなたの毎日が少しだけ豊かになるような、そんなブログを目指します。